エージェント契約って良いの?悪いの?エンタメ業界に精通した弁護士が解説

芸能

旧ジャニーズ事務所や吉本興業など、日本の大手芸能事務所に所属するタレントの独立に関する話題において「エージェント契約」や「マネジメント契約」などのワードを耳にしたことがあるのではないでしょうか。今回はタレントや俳優、歌手、芸人など、いわゆるエンターテインメント業界における両契約の違いや注意点について解説していきます。

マネジメント契約とエージェント契約

日本の芸能界においては、これまでマネジメント契約が主流とされてきました。マネジメント契約では、仕事の獲得などの営業活動や契約、スケジュール管理やトラブル対応など、“タレント活動以外”のあらゆる業務をタレントの代わりに事務所が行います。

一方、エージェント契約では事務所が行うのは、タレントを売り込み仕事を獲得する営業活動のみで、その他のさまざまな業務はタレントが自ら行います。数年前に闇営業問題の渦中の吉本興業がエージェント契約の導入を発表したことで、日本でも話題になりました。

メリットとデメリット

タレントの立場では、それぞれどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

まず、マネジメント契約においては、事務所が多様な業務をタレントに代わって行うため、その分タレントは本業である自身の芸能活動に専念ができます。その分、売上や契約金などを一定の割合で事務所とシェアするため、自身の取り分は少なくなる傾向にあります。若手のタレントなどでは、固定給となっている場合もあり、自分の出演料すら知らないケースもあると聞きます。

また、出演作などやグッズなどの権利も事務所にあるため、事務所への依存度が高くなりがちで、立場もタレントの方が低くなってしまうという問題点があります。公正取引委員会も、事務所が強い立場を利用する行為は、独占禁止法の「優越的地位の乱用」に当たるとし、悪質な場合は行政処分に踏み切るという見解を発表しています。

こうした事務所と所属タレントの関係性が悪い形で出てしまったのが、創業者による性加害問題が露呈した旧ジャニーズ事務所で、同事務所も先日エージェント制への移行を発表しました。

エージェント制度では、仕事の選択権はタレント自身にあるため、自由度と仕事の選択肢は広がると言えます。例えば、これまでは事務所と取引先との関係性に忖度して、やりたくなくても受けざるを得なかった仕事が断れるようになったり、逆にやりたくても事務所の許可がおりなかった仕事を受けることも可能です。事務所の管理下でSNSでの情報発信を自由に行えなかったというタレントは、自身の責任のもとでSNSを活用し、全世界に自信を発信することができます。

また、これまで事務所とシェアしていた売上も、自身の取り分が多くなり手取り収入はアップするでしょう。

事務所にとってもプラス

タレントだけでなく、事務所側にとっても良い面があります。これまでタレントの移動やスケジュール管理などマネージャーが行っていた業務がなくなる分、人的コストを抑えることができます。

加えて、タレントのスキャンダルや不祥事などによる企業イメージの低下やブランド毀損に伴うレピュテーションリスクは、専属の所属タレントの場合と比較すると低くなると言えます。

タレントは弁護士と協力を

ここまで聞くと、エージェント契約の良い部分が目立つようですが、見方を変えるとタレント自身が自らの責任で行う業務領域が広がっているとも言えます。

例えば、CMやドラマの出演に関する契約書は、事務所の法務担当にチェックしてもらえばよかったかもしれません。SNSの炎上対応も、事務所の指示に従えばよかったかもしれません。不祥事やトラブル発生時における関係各所への対応も事務所が主導してくれていたでしょう。エージェント契約ではこれらは全て、タレントが自ら行う必要があるのです。

タレントに限った話ではなく、契約書締結などの法務や危機管理対応などは、専門性の高い業務領域であり、一人でこなすのは困難です。多忙で不規則なタレント活動との兼業となればなおさらです。

俳優や芸人、歌手などの従来の職種に加え、近年ではYoutuberやVチューバー、インフルエンサーなどエンターテインメント業界のプレイヤーと裾野が広がっています。その分契約形態や、危機管理の範囲もネットやSNSなど多様化しており、日々変化しています。欧米ではこうしたエージェント契約のタレントの法務や危機管理業務を専門で行う法律事務所などもあり、タレントと弁護士の協力体制が構築されています。

まとめ

タレントと契約するテレビ局や広告代理店、企業側の立場からしても、コンプライアンス意識が高まる中で、しっかりと弁護士と協力しているタレントとの契約は、大きな安心材料になると言えます。

法律事務所Zでは、複数の芸能事務所の顧問を務めており、事務所とタレント双方の立場で法的アドバイスを提供しているほか、エンタメ業界に精通した弁護士が所属しております。エージェント契約に踏み切ろうと考えているエンタメ業界従事者の方は、当事務所にご相談ください。

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エージェント契約対応サービス | 法律事務所Z
依田俊一

2011年慶應義塾大学経済学部卒業、2014年東京大学法科大学院修了。法務博士(専門職)。経済産業省、中小企業庁を経て、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。野村證券株式会社に出向し、法律事務所Zを創立。現在は国内ファンドに所属。証券会社において、ファイナンシャルアドバイザーとして、多数のM&A、事業再編の支援を担当した経験から、M&A、事業承継、買収ローン案件に強みを持つ。

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