企業不祥事に関するネット記事は削除できる?デジタルタトゥーの対応を弁護士が解説

ネットトラブル

これまで、デマや過去の逮捕報道など個人のデジタルタトゥーの被害と対処法について解説してきましたが、デジタルタトゥーは、個人に限った話ではありません。企業においてもデジタルタトゥーの被害に困っていたり、トラブルのリスクを抱えていることもあります。今回は企業とデジタルタトゥーについて、事例を交えて解説していきます。

デジタルタトゥーにまつわる企業の相談事例

事例①食中毒を出してしまった飲食店

都内の某飲食店は数年前に食中毒を出してしまいました。食中毒報道が続いていた時期だったこともあり、店名とともに報道されてしまいました。保健所の調査や営業停止期間を経て、現在は適切な対策を講じて通常営業を再開しており、その後は食中毒の再発も起きておりません。

すでに数年が経過していますが、ネットで店名を検索すると食中毒の記事がネット上に残ってしまっている状況で、客足に影響が出てしまったり、新規のお客さんが記事を見て来店を止めてしまうことを懸念しています。

新規の来店客はネットでお店を調べてから来るケースも多く、このまま記事が残り続ける状況は回避したく、記事を削除する方法はないかと悩んでいます。

事例②ウイルス感染症を出してしまったペットショップ

複数のペットショップを運営しているA社では、数年前にとある店舗内でウイルス性の感染症がまん延し、取り扱っている動物数匹が死んでしまいました。感染力が高いウイルスだったことや、複数の個体が死亡してしまったこともあり、社名と店舗名とともに報道されてしまいました。また、A社の公表に時間がかかったことから「隠蔽しようとしたのでは」という憶測を呼んでしまい、動物愛護家などのブログ等でも拡散される自体に発展してしまいました。

保健所や関連団体の指導のもと、適切な消毒や調査を経て営業を再開していますが、ネットで店名を検索すると記事やブログがネット上に残ってしまっている状況です。

購入を検討しているお客さんだけでなく、従業員の採用活動にも影響してしまう可能性もあり、記事の削除を希望しています。

デジタルタトゥーとなってしまう企業の不祥事と報道について

企業が不祥事を起こした場合、企業規模の大小に関わらず、社会的影響力という観点で社名とともに報道される可能性が高いです。企業の不祥事においては、どの企業で起きたことなのかが重要な情報となるため、個人の事件とは違い匿名となることはほぼありません。また、上場企業や有名企業、多くのユーザーを抱える企業においては、やはり社会的な影響という観点で報道されやすいと言えます。

今回紹介した事例の場合、どちらも大きな企業ではないものの、食中毒や感染症という健康や安全に関わる問題だったことが、報道された要因の一つと考えられます。

デジタルタトゥーとなってしまう報道とネット検索

一般的に報道機関のホームページは、検索エンジンからのサイトドメイン評価が高く、いわゆる「ドメインパワー」が強いため、ネット検索で上位表示されやすいという特徴があります。そのため、一度報道機関のサイト上に社名付きで記事が掲載されてしまうと、社名で検索した時に該当のネット記事が検索結果の上位に出てきてしまうのです。

また、ネットを通じて報道された企業不祥事などのネガティブな記事は、SNSやブログなどに転載されることもあります。拡散してしまうと削除の対象自体も多くなってしまうので、拡散してしまった場合弁護士に相談した上で、早期に削除対応を進めるのがよいでしょう。

デジタルタトゥーとなってしまった企業の不祥事報道の削除方法

一度インターネット上に公開されてしまった記事や転載されたブログなどを削除するには、どうしたら良いのでしょうか。主に次の4つの方法で削除要請を行なっていきます。

①報道機関や運営会社に削除要請

まずは、該当の報道機関に対して問い合わせフォームやメールなどを通じて削除を要請します。ブログやSNSに転載された記事は該当のサイトやサービスの運営者に対して削除を要請します。この場合、従業員の立場で連絡しても無視されてしまう可能性が高いため、弁護士に相談の上、弁護士から削除要請や損害賠償請求する旨を連絡するのが効果的です。

②プロバイダーに削除を依頼

報道機関の記事が別のサイトに転載されているケースで、転載先サイトの運営者が削除に応じてくれない場合、プロバイダーに対して削除を依頼します。一般的にブログやウェブサイトはインターネットサービスプロバイダーが提供するサーバー上に記事などのコンテンツを設置しています。つまり、記事をネット上から削除したい場合、該当のサーバー上から削除すれば良いのです。ここでいうプロバイダーとはこのサーバーの提供者を指します。

削除依頼として代表的な方法は、一般社団法人テレコムサービス協会(通称テレサ)のガイドラインに沿ったフォーマットである「テレサ書式」を使って申請するものです。同協会には多くのIT関連企業が加入しているため、業界内で広く認知された書式と言えます。

③裁判所に仮処分を申し立てる

プロバイダーがテレサ書式による削除依頼に応じなかった場合、裁判所に仮処分を申し立て、プロバイダーに対して該当記事を削除する仮処分命令を発令してもらいます。

プロバイダーにはプロバイダーとしての責任上、削除要請に応じにくい事情があります。本来プロバイダーは、サーバーの利用者(ブログやサイト運営者)に対して、サービス提供者としての責任があります。仮に該当のブログ記事が、誰に対しても権利侵害をしていない正しい情報に基づいた記事であるにも関わらず、依頼に応じて削除したとします。すると、サーバー利用者であるブログ運営者から損害賠償請求を受ける可能性があるのです。

つまり、プロバイダーには、記事を削除してほしい側とサーバーの利用者の双方から法的責任を問われる立場にあり、その責任と免責の対象を明確にするプロバイダ責任制限法という法律が存在しています。裁判所から削除命令を受けた場合、裁判所が削除すべき理由のある情報であると認めたということになり、プロバイダ責任制限法の定めによって記事を削除したことによる責任を問われることなく、削除を行うことができるのです。

④報道機関を訴える

報道機関が削除に応じない場合においては、報道による損害賠償請求などを主張して報道機関を訴えるという方法もあります。

実際のところは、不祥事が事実であっても一定の時間が経過していると削除してもらいやすく、訴えるまでせずとも①の段階で削除してもらえることも多いです。

弁護士に相談して早期に解決を

企業不祥事に関する報道の削除要請はご自身で行なうこともできますが、法的根拠に基づいた弁護士の削除要請の方が有効な場合もあります。

法律事務所Zでは、報道機関への削除要請はもちろん、テレサ書式の記入や仮処分申し立てについてもノウハウがございます。GAFAなどのIT企業出身の弁護士も所属しており、ネットトラブルに関する知見も有しております。ネットにまつわるお困りごとは、お気軽にご相談してください。

依田俊一

2011年慶應義塾大学経済学部卒業、2014年東京大学法科大学院修了。法務博士(専門職)。経済産業省、中小企業庁を経て、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。野村證券株式会社に出向し、法律事務所Zを創立。現在は国内ファンドに所属。証券会社において、ファイナンシャルアドバイザーとして、多数のM&A、事業再編の支援を担当した経験から、M&A、事業承継、買収ローン案件に強みを持つ。

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