GAFA出身の弁護士が解説 ネットで拡散したデマは削除できる?

ネットトラブル

ネットで誹謗中傷を受けたり、身に覚えのないデマが拡散して炎上するーー。インターネットやSNSで誰もが情報収集と発信ができるようになり便利になった一方で、いわゆるネットトラブルについても、誰もが当事者になり得る時代になったと言ってよいでしょう。今回は、ネット上にデマや誹謗中傷を掲載されてしまった場合の対処方法について、事例も交えて解説していきます。

きっかけは週刊誌報道

会社経営者の松井さん(仮名)は、数年前に身に覚えのない反社との関わりについて、週刊誌で記事にされてしまいました。事実無根の誤報だったため、すぐに弁護士を通じて出版社へ抗議と記事の削除要請を行いました。幸い、出版社はすぐに誤報を認め、謝罪と訂正に応じました。会社のホームページでも、事実と異なる誤報である旨を発表し、取引先にも説明にまわり、大きな影響もなく終わるはずでした。

一連の誤報騒ぎから少し経ち、穏やかな日常生活を取り戻していたころ、知人からメールでとあるブログサイトのURLが送られてきました。アクセスしてみるとそこには、『経営者松井の光と影。輝かしい経歴の裏で反社との怪しい関係(※本記事用に見出しを変えています)』などという見出しとともに、松井の出身地や出身校、経歴などに加えて、明らかに前述の週刊誌報道から抜粋したであろう、反社との関係について書かれていました。

「まだ終わらないのか・・・」

終わりの見えないデマとの戦いに、途方に暮れながらも「氏名 社名 反社」などのキーワードでネット検索をしてみたところ、他にも複数のブログサイトに同様の記事が掲載されていることが分かりました。

閲覧数を稼ぐために

なぜ、週刊誌が誤報であることを認めているにも関わらず、こうしたブログ記事が存在しているのでしょうか。そこには、ブログサイトの収益構造が大きく関係しています。ブログサイトで収益を得る場合、①サイト自体を会員に有料で公開し、購読料を徴収するサブスクリプションモデルと、②サイト上に表示される広告から収益を得る広告モデルの2つの手法が代表的です。

今回のように週刊誌の記事を転載する形で一般公開しているブログサイトの場合、②の広告モデルによって収益を得ていると考えられます。インターネット広告においては、インプレッション(表示)数や、クリック数などに応じて課金されるものや、アフィリエイト(成果報酬)型など詳細は割愛しますが、いくつか課金方法があります。

いずれの手法においても記事が多くの人に閲覧されればされるほど、収益を得やすい構造であるため、著名人のゴシップや噂話など、閲覧数を稼ぎやすい週刊誌ネタを転載する形で記事を量産して、多くの広告収入を得ようとするブログサイトが存在しているのが実情です。週刊誌の記事にも著作権がありますので、転載行為自体にも問題がありますが、閲覧数目当てで過激なデマや嘘の記事を載せる悪質なケースも確認されています。松井さんの場合も、閲覧数を“稼げる”ネタとして、週刊誌が誤報と認めた過去の記事を利用されてしまったのです。

3つの削除要請方法

では、一度インターネット上に公開されてしまった記事を削除するには、どうしたら良いのでしょうか。主に以下の3つの方法で、順を追って削除要請を行っていきます。

①ブログサイトの運営者に削除要請

まずは、ブログサイトの運営者に対して、問い合わせフォームやメールなどを通じて削除を要請します。この場合、個人で連絡しても無視されてしまう可能性が高いため、弁護士に相談の上、弁護士から削除要請や損害賠償請求する旨を連絡するのが効果的です。

②プロバイダーに削除を依頼

サイト運営者が削除に応じてくれない場合、プロバイダーに対して削除を依頼します。一般的にブログやウェブサイトはインターネットサービスプロバイダーが提供するサーバー上に記事などのコンテンツを設置しています。つまり、ブログ記事をネット上から削除したい場合、該当のサーバー上から削除すれば良いのです。ここでいうプロバイダーとはこのサーバーの提供者を指します。

削除依頼の方法として代表的なのが、一般社団法人テレコムサービス協会(通称テレサ)のガイドラインに沿ったフォーマットである「テレサ書式」を使って申請するものです。同協会には多くのIT関連企業が加入しているため、業界内で広く認知された書式と言えます。

③裁判所に仮処分を申し立てる

プロバイダーがテレサ書式による削除依頼に応じなかった場合、裁判所に仮処分を申し立て、プロバイダーに対して該当記事を削除する仮処分命令を発令してもらいます。実はプロバイダーには、プロバイダーとしての責任上、削除要請に応じにくい事情があります。本来プロバイダーは、サーバーの利用者(ブログサイト運営者)に対して、サービス提供者としての責任があります。仮に該当のブログ記事が、誰に対しても権利侵害をしていない正しい情報に基づいた記事であるにも関わらず、依頼に応じて削除したとします。すると、サーバー利用者であるブログ運営者から損害賠償請求を受ける可能性があるのです。

つまり、プロバイダーには、記事を削除してほしい側とサーバーの利用者の双方から法的責任を問われる立場にあり、その責任と免責の対象を明確にするプロバイダ責任制限法という法律が存在しています。裁判所から削除命令を受けた場合、裁判所が削除すべき理由のある情報であると認めたということになり、プロバイダ責任制限法の定めによって記事を削除したことによる責任を問われることなく、削除を行うことができるのです。

まとめ

今回のケースでは、大半のサイトが①及び②の段階で削除に応じ、一部③まで進んで完全に削除されました。今回はデマについての対応事例でしたが、誹謗中傷や名誉毀損のような場合でも、基本的な削除要請の方法は同じです。いずれの手法においても弁護士に相談の上で対応した方がスムーズです。法律事務所Zでは、テレサ書式の記入や仮処分申し立てについてもノウハウがございます。GAFAなどのIT企業出身の弁護士や、芸能事務所の顧問弁護士を務める弁護士も所属しており、ネットトラブルに関する知見も有しております。ネットにまつわるお困りごとは、ひとりで悩まず相談してみてください。

依田俊一 2011年慶應義塾大学経済学部卒業、2014年東京大学法科大学院修了。法務博士(専門職)。経済産業省、中小企業庁を経て、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。野村證券株式会社に出向し、法律事務所Zを創立。現在は国内ファンドに所属。証券会社において、ファイナンシャルアドバイザーとして、多数のM&A、事業再編の支援を担当した経験から、M&A、事業承継、買収ローン案件に強みを持つ。 

菅野龍太郎

アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所後、バークレイズ証券株式会社出向、アマゾンジャパン合同会社入社を経て、法律事務所Zを設立。多数のクロスボーダーを含む訴訟・紛争解決、事業再生、M&A、金融法務、一般企業法務、相続案件等に従事しており、渉外案件に強みを持つ。また、アマゾンジャパンでの経験から、会社法のみならず決済関係法務にも精通し、新たな決済手段の導入や法令順守体制の構築も手掛ける。

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