選挙に強い弁護士が公職選挙法を解説 選挙とネット広告、ココに注意!

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23年4月に行われた東京都江東区長選挙を巡って、公職選挙法違反にあたる行為があったとして、当選した木村弥生前区長が辞職しました。今回問題があったとされるのは、インターネット有料広告についてです。何が問題だったのか解説していきます。

木村前江東区長と法務副大臣が辞任

江東区の木村前区長は、4月の区長選において、Youtubeに自らの陣営が投票を呼びかける有料広告を出したとして、公職選挙法違反の疑いで東京地検特捜部の捜査を受けました。これを受けて木村前区長は、辞職する意向を表明したのですが、騒動はこれで終わりませんでした。その後、木村前区長にYoutube広告を提案したとして、柿沢法務副大臣が辞任する事態にまで発展したのです。

公職選挙法とは

木村前区長のYoutube広告は何が問題だったのでしょうか。

そもそも公職選挙法とは、国会議員や地方議員・首長等の選挙方法に関する法律です。前提として、選挙の公平性を保つことを目的としており、資金力のある候補者が予算を大量に投下して、大々的に広告キャンペーンを打つような行為が行われないよう、ルールを定めております。選挙期間中は、選挙ポスターや選挙ビラの枚数に制限があるのもそのためです。

2013年の法改正で選挙におけるネットの活用が一部解禁され、政党や候補者がSNSなどで投票を呼びかけられるようになりました。しかし、予算を大量にもっている勢力に有利にならないよう、公職選挙法は、候補者本人が選挙運動でネットに有料広告を出すのは禁じており(第142条の6第1項)、違反した場合、2年以下の禁錮または50万円以下の罰金が科されます。木村前区長のYouTube広告は、まさにこれに該当するのです。

選挙運動と政治活動

公職選挙法について説明する上で、「選挙運動」と「政治活動」を分けて考える必要があります。選挙活動とは①特定の選挙に関して②特定人を当選させるため投票を得るもしくは得させる目的をもって③直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘、その他、諸般の行為をすることを指します。

「●●選挙に立候補する予定の××です。投票お願いします」は、選挙運動に該当します。前提として、選挙運動期間中のみ認められており、選挙運動期間外に行うことはできません。

他方、こうした「選挙運動」にあたらないものは「政治活動」といわれています。多くの場合、選挙運動期間中でない場合に行われています。

なぜ、これらの区別が大切なのかというと、現在の公職選挙法は、「選挙運動」には細かくルールがあるのに対し、これに該当しない「政治活動」は広く認められるからです。

というのも、現行の公職選挙法は、男性に普通選挙が解禁された当時の各選挙法の条文を引き継ぐ形で制定されたものだからです。普通選挙が解禁された当時は、国民に自由な選挙を認めるべきではないとの考えでした。公職選挙法は、このルールを引き継いだからこそ「べからず集」といわれるほど厳しいルールになっています。

ところが、戦後、日本国憲法が制定され、国民に表現の自由が保障されました。そのため、これに含まれる「政治活動の自由」が、国民に広く保障されるようになったのです。

そうすると「選挙運動の自由」も、表現の自由として広く保障されるはずなのですが、公職選挙法は1950年の制定以来、抜本的な改訂が行われず、あいかわらず「べからず集」のまま残っているのです。

このような背景があるため、公職選挙法のルールは、時流と乖離して慣習的に残っているルールがあり、これを前提に、新しいルールを作っているので、複雑怪奇な内容になっているのです。

公職選挙法違反に該当するかどうか

今回問題となったYoutube広告は、選挙期間中に掲出されたものです。前述の通り、選挙運動に該当する場合は、公職選挙法違反となります。実際に掲出された広告には、木村氏本人の顔写真とともに、「木村やよいに投票してください」というメッセージが表示されていました。

掲出された広告のイメージ(実際に掲出された広告から再現)

これは選挙運動に該当します。ただし限られた例外として、国会議員の選挙や、都道府県・政令指定都市の議員、都道府県知事または市長の選挙では、政党や確認を受けた団体などは、一部の有料広告を出すことができます(142条の6第4項)。今回は区長選挙であるため、4項が定める例外にも該当しないため、公職選挙法違反にあたるでしょう。

まとめ

こうした例外を利用したり、選挙運動に該当しないギリギリのビラを配ったり、インターネット広告を掲出している事例もあります。

しかし、過去に誰かが行った方法であっても、摘発されていないだけで、本来的には違法な場合もあります。近年、公職選挙法違反の取り締まりが厳しくなっていることから、安易に「大丈夫だ」と思っても、あとから辞職に追い込まれる危険すらあります。

ネット広告に限らず、公職選挙法自体の解釈には注意が必要なため、選挙を経験したことのある公職選挙法に詳しい弁護士に相談の上で適切な施策を実施することをお勧めします。

伊藤 建

弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。

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