外資系企業によるレイオフへのアクション〜退職金増額・RSU確保など〜

労働

はじめに(外資系企業によるレイオフ実施の波)

2022年11月、Twitter, Inc(ツイッター)のCEO(取締役)に就任したElon Reeve Musk(イーロン・リーブ・マスク)氏が大規模な従業員のレイオフ(layoff)を実施し、同社の日本法人(Twitter Japan株式会社)で働く従業員も対象となったことで話題になりました。

その規模の大きさやレイオフが実施されるまでのスピード感から、対象となった方や関係者の皆様は特に驚き、困惑されたことと存じます。

このレイオフの波は、IT系、テック系を中心に、他の外資系企業にも訪れています。今後の景気が悪くなると予想されていることから、予防的なレイオフを実施している企業も少なくありません。

本記事では、外資系企業によるレイオフがあった場合の法的対応のポイントについてご説明差し上げます。

なお、外資系企業によるレイオフがあった場合の解決金獲得事例については、「外資企業による突然の解雇通告、解決金はいくら受け取れる?」でもご案内しております。併せてご参照ください。

レイオフとは?

レイオフ(layoff)とは、欧米の企業で人員削減・整理の方法として用いられる一時解雇のことです。

日本の企業では、いわゆるレイオフが実施されることは少なく、現在の日本の法律では、レイオフについて直接的に規制がされているものではありません。

もっとも、日本でも類似の法的概念が存在しており、これに基づいて対応をしていくことになります。

レイオフが実施された場合の法的対応

日本の労働法上、レイオフに近い法的概念としては、①退職勧奨、②解雇があげられます。

これらのいずれにあたるか、あるいは、どちらに当たることを前提に交渉を進めていくかは、個別の事案によるため、一概に決まるものではございません。法的知識を踏まえた緻密な検討や対応が必要になるため、弁護士のアドバイスを受けて適切な見通しと交渉戦略のもと、対応していく必要があります。

また、対応にあたっては、会社を辞めたいのか、会社に残り続けたいのか、条件次第でどちらの選択をすることもあり得るのかを、ご自身で良く考えておく必要もございます。日本の法律上、レイオフが実施されたことをもって必ずしも退職をしなければならない訳ではありません(会社側は、この点を従業員が十分に理解していない可能性があるところを突いて、期限を区切って条件提示し、退職勧奨に応じるよう求めてくることもあります。)。この点もご理解のうえで、対応をご検討いただくべきです。

外資系企業は、本社の欧米での法制を前提にしたレイオフを実施している場合が多いため、労働者の保護に厚い日本においては歪みが生じており、この点で従業員(労働者)に交渉力が生まれてきます。

①退職勧奨の構成

一般的に、レイオフが行われたことを法的に争う場合、会社(使用者)は、適法な退職勧奨であると主張してきます。つまり、「レイオフは、あくまで会社を任意に辞めてもらうこと(雇用契約の合意解約)の提案をしただけであり、無理矢理辞めさせるつもりはない。したがって、違法ではない。」という考え方をしているのです。もちろん、会社の建前であり、本音としては、何らかの事情で対象者を辞めさせたいのでレイオフをしている場合が多いでしょう。

これに対し、レイオフの対象者とされてしまった従業員(労働者)は、違法な退職勧奨であると主張することが考えられます。

違法な退職勧奨であると認められるには、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するような態様や労働者の人格的利益を侵害するような態様でのレイオフの実施であったといえなければなりません(東京高判平成24年10月31日(労経速2172号3頁)〔日本IBM事件〕)。

例えば、暴行や不当な心理的圧力、労働者が拒んだ後での執拗な退職勧奨の継続、長時間の退職勧奨等があった場合です。上記のような会社の「本音」を予想しつつ、これらの事実関係があることを主張して、適切な条件を獲得するための交渉をしていくことになるでしょう。

②解雇の構成

レイオフの対象者とされてしまった従業員(労働者)は、違法な(実質的な)解雇であると主張することも考えられます。

解雇を行うには、合理的な理由がなければなりません。単に経営不振であるとか、不況になる可能性があるといったことのみでは、合理的な理由があるとはいえず、適法な解雇とされる可能性は高くないものと思われます(便宜上、抽象的なご説明となっていることをお含みおきください。実際には、主張する解雇の類型や事実関係を踏まえた詳細な検討が必要です)。

この構成でも、上記のような会社の「本音」を予想しつつ、これらの事実関係があることを主張して、適切な条件を獲得するための交渉をしていくことになるでしょう。

③プラスαの構成

レイオフの態様によっては、パワハラにあたることもあり、損害賠償請求を行える場合もあり得ます。

獲得目標

レイオフに対する法的対応を行うならば、退職に応じるのか、応じないのかによって以下の表の内容を獲得目標とします。

外資系企業では、RSU(譲渡制限付株式報酬)が交付されている場合が多く、これらも含めた条件交渉を行う必要があります。

当職としては、RSUについても、給与に含まれているものとして主張し、退職金・解決金の増額と併せてきちんと取り扱いを明確化する必要があるものと考えます。せっかく会社と和解ができたとしても、RSUについても明確に取り扱いを決めないと、後にRSUの所有状況の確認や換金等に苦労することになり、紛争の抜本的な解決ができていないことになってしまいます。

さいごに

法律事務所Zでは、GAFA出身で外資系企業に精通し、英語での交渉も対応できる弁護士や外資系企業のレイオフについての対応経験がある弁護士が所属しております。お困りの際は、お気軽にご相談ください。

溝口矢

2016年慶應義塾大学法科大学院卒業後、ベンチャー企業でのマーケティング等に関与。 弁護士登録と同時に入所した弁護士法人Martial Artsでは、不動産分野、債権回収を中心に多数の一般民事事件や中小企業法務を取り扱った。不動産会社内で企業内法務にも携わる。 知的財産分野に関心があり、エンターテインメント関係の相談対応も手掛けている。

溝口矢をフォローする
労働
シェアする
タイトルとURLをコピーしました