税金対策で所得が低い場合、婚姻費用はどうなるの?

男女問題

離婚についてのご相談をいただく中で、揉めてしまいがちなのが財産分与や慰謝料、養育費などお金にまつわる条件面です。中でも婚姻費用は、夫婦が互いに社会的な生活を維持するために重要なお金と言えます。今回は、税金対策で所得を低く見せている場合に、適切な婚姻費用をどう算出するかについて、実際の事例も交えて解説いたします。

確定申告書類上の所得が・・・

50代女性のKさんは、同じく50代で自営業を営む夫と離婚調停中で別居を検討しています。Kさんは夫の正確な年収は把握していませんでしたが、夫は周囲には「年収は3,000万円くらいある」と言っていました。実際に高級車も所有しており、夫の普段の金遣いを見ていても、それなりの収入があることはKさんも実感していました。

ところが、婚姻費用の算出にあたり、確定申告書類を確認したところ、夫の所得は200万円程度であることがわかりました。このままでは、婚姻費用が低くなってしまうのではないかとKさんは心配しています。

婚姻費用とは

「婚姻費用」とは夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用のことで、居住費や生活費、子供がいれば学費なども含まれます。夫婦は、収入等に応じて婚姻費用をお互いに分担することが民法760条で定められています。

このことは離婚を前提として別居中であっても同一で、たとえ一方に収入がなかったとしても、同居しているときと同程度の生活水準が互いに維持されなければなりません。

婚姻費用の算定方法

では、婚姻費用の額はどのように算出するのでしょうか。一般的には「算定表」という早見表を用いて算定されます。この算定表を見れば、婚姻費用を支払う方(義務者)と受け取る方(権利者)の収入の組み合わせから、迅速におおよその額を算定することができます。収入の組み合わせですので、給与所得者であれば源泉徴収票、自営業者であれば確定申告書などの客観的資料からそれぞれ認定するのが通常です。

しかし、自営業を営む方の場合、課税対策によって確定申告書上の収入が、実際の収入に比して著しく低くなっていることがしばしばあります。Kさんの夫も同じ理由で所得が低くなっていたのですが、このまま確定申告書の所得をもとに婚姻費用を算定するしかないのでしょうか。

生活実態を考慮

客観的な資料から正確な収入額を認定することが難しい場合には、生活実態を考慮に入れて婚姻費用を算定する方法があります。例えば、お小遣いなど毎月定額で捻出している生活費をもとに収入を逆算できるのです。

Kさんは婚姻期間中に月23万円のお小遣いを夫から受け取っていました。自営業者の負担する経費等の割合が平均5割程度であることを加味しても、夫には少なくともそれを支払える程度(23万円×12ヶ月÷0.5=552万円)の収入があることが推定できます。したがって、Kさんは少なくとも550万円程度という収入額をもとに婚姻費用を算定できることになります。

お小遣い以外にも、生活実態から正しく婚姻費用を算定するためのポイントはいくつかあります。弁護士が介入し生活状況をヒアリングすることで算定方法の選択肢が広がります。まずは些細なことでも相談してみてください。私たちと一緒にあなたが本来もらうべきお金をしっかり受け取りましょう。

伊藤 建

弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。

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