労働問題に関するご相談をいただく中で、多くの方が悩んでるのが残業代の未払いなど時間外労働にまつわるトラブルです。職場の雰囲気や同僚との関係性などから、在職中の残業代の支払い交渉をためらう方は多いですが、転職を機に残業代について考え直したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は転職時に在職中の残業代を請求できるかについて事例を交えて解説していきます。
業務命令に従った時間外労働なのに・・・
日常的に残業することが多いタレントマネージャー職のSさんは、入社時から一度も残業代が支払われたことがありませんでした。業務命令に従った時間外労働かつ、長時間に及ぶことも多かったため、退職を期に未払い分の残業代の支払い交渉を決意しました。通常このようなケースでは、タイムカードなどの勤怠記録をもとに、勤務時間と本来支払われるべきだった残業代を算出します。
しかし、Sさんはタイムカードを実際の就業時刻ではなく定時で打刻してしまっていたため、タイムカードから残業時間を割り出すことが困難でした。Sさんは過去に遡って残業代を受け取ることができるでしょうか。
労働基準法と割増賃金
前提として、企業は従業員が働いた分の賃金を支払う義務があり、時間外労働の場合は条件や時間に応じた「時間外割増賃金」が労働基準法で定められています。以下の表の通り、通常の賃金が時給1,000円の場合、残業代は1,250円以上となります。
法律で定められた義務ですので、企業は残業代を支払う必要がありますし、Sさんは残業代を受け取る権利があります。ただし、残業代には請求期限が定められていて、現在は最長3年まで(※)しか遡ることができません。
※2020年3月31日以前の残業代の請求期限は2年
位置情報から勤務時間を算出
前述の通り、Sさんは基本的に定時でタイムカードを打刻してしまっており、正確な残業時間の勤務記録が残っていない状況でした。そもそも、残業しているにもかかわらず定時でタイムカードを打刻させること自体が法的にNGのため、会社との交渉の余地は大いにありますが、残業時間の根拠として何かしらの勤務記録を交渉材料に用いることが望ましいです。
今回のケースでは、GoogleMapの位置情報や移動履歴をもとに勤務時間を算出する方法を提案しました。
例えば、会社の周囲の位置情報からオフィスにいた時間が推測できますし、業務での外出先の移動履歴があればそれも勤務時間の根拠となります。
Sさんの場合、GoogleMapの移動履歴が細かく残っていたため、勤務会社との交渉をスムーズに進めることができ、過去2年に遡って未払いの残業代約170万円の支払いを受けることができました。
退職後も残業代は請求できる
Sさんのように残業時間の勤怠記録が残っていない場合でも、残業代の請求は可能です。すでに退職してしまっていても、請求期限内の残業代は企業側に支払い義務があります。ポイントは勤怠記録の根拠となる情報を集めることと、法的根拠に基づいて会社と交渉をすることです。お世話になった勤務先に対して残業代請求をすることに抵抗がある方も、弁護士が間に入ることで、円滑に交渉を進めることができます。まずはお気軽にご相談いただき、本来もらうべき残業代をしっかり受け取りましょう。