実名報道された逮捕に関するネット記事は削除できる?デジタルタトゥーの対応を弁護士が解説

ネットトラブル

インターネットやSNSで誰もが情報収集と発信ができるようになり便利になった一方で、いわゆるネットトラブルについても、誰もが当事者になり得る時代になりました。当事務所でも、近年ネットトラブルでお困りの方からの相談が増えています。今回はデジタルタトゥーの中でも、逮捕後に実名報道された記事を削除できるかについて解説していきます。

実名報道の相談事例

事例①痴漢で逮捕されたケース

20代男性のAさんは、数年前に痴漢で逮捕されました。公務員だったこともあり実名で報道されてしまいました。その後、相手方と示談が成立して不起訴となりましたが、その事実についての続報はなく、逮捕された時点の記事がネット上に残ってしまっている状況です。

当時の職場は退職しており、再就職先を探して就職活動を進めるなかで、自身の実名報道の記事があることで、採用結果に影響が出てしまって困っています。

事例②不同意性交で逮捕されたケース

30代男性のBさんは不同意性交罪で逮捕され、勤め先が有名企業だったこともあり、実名報道されてしまいました。捜査の結果、嫌疑不十分で不起訴となりましたが、勤め先は逮捕されている間に解雇されてしまいました。再就職のために就職活動中ですが、Aさん同様に実名報道の記事が残っている状況です。

また、交際や結婚する際の影響も懸念していて、なんとか記事を削除したいと考えています。

実名報道とネット検索

一般的に報道機関のホームページは、検索エンジンからのサイトドメイン評価が高く、いわゆる「ドメインパワー」が強いため、ネット検索で上位表示されやすいという特徴があります。そのため、一度報道機関のサイト上に実名報道の記事が掲載されてしまうと、氏名で検索した時に該当のネット記事が検索結果の上位に出てきてしまうのです。

転職先の採用担当者が、求職者の氏名でネット検索する可能性も高く、このまま記事が残り続けるのは避けたいところです。加えて、Bさんが懸念しているように縁談などに影響が出てしまう可能性もあり、早期に削除するのが望ましいです。

また、ネットを通じて報道されたネガティブな記事は、SNSやブログなどに転載されることもあります。拡散してしまうと削除の対象自体も多くなってしまうので、実名報道されたら弁護士に相談した上で、早期に削除対応を進めるのがよいでしょう。

実名報道の削除方法

一度インターネット上に公開されてしまった記事や転載されたブログなどを削除するには、どうしたら良いのでしょうか。主に次の3つの方法で削除要請を行っていきます。

①報道機関や運営会社に削除要請

まずは、該当の報道機関に対して問い合わせフォームやメールなどを通じて削除を要請します。ブログやSNSに転載された記事は該当のサイトやサービスの運営者に対して削除を要請します。実名報道においては、プライバシーの侵害を主張するのも有効です。この場合、個人で連絡しても無視されてしまう可能性が高いため、弁護士に相談の上、弁護士から削除要請や損害賠償請求する旨を連絡するのが効果的です。

特に実名報道後に、示談が成立したり不起訴になっているケースでは、削除要請に応じてもらいやすいです。

②プロバイダーに削除を依頼

報道機関の記事が別のサイトに転載されているケースで、転載先サイトの運営者が削除に応じてくれない場合、プロバイダーに対して削除を依頼します。一般的にブログやウェブサイトはインターネットサービスプロバイダーが提供するサーバー上に記事などのコンテンツを設置しています。つまり、記事をネット上から削除したい場合、該当のサーバー上から削除すれば良いのです。ここでいうプロバイダーとはこのサーバーの提供者を指します。

削除依頼として代表的な方法は、一般社団法人テレコムサービス協会(通称テレサ)のガイドラインに沿ったフォーマットである「テレサ書式」を使って申請するものです。同協会には多くのIT関連企業が加入しているため、業界内で広く認知された書式と言えます。

③裁判所に仮処分を申し立てる

プロバイダーがテレサ書式による削除依頼に応じなかった場合、裁判所に仮処分を申し立て、プロバイダーに対して該当記事を削除する仮処分命令を発令してもらいます。

プロバイダーにはプロバイダーとしての責任上、削除要請に応じにくい事情があります。本来プロバイダーは、サーバーの利用者(ブログやサイト運営者)に対して、サービス提供者としての責任があります。仮に該当のブログ記事が、誰に対しても権利侵害をしていない正しい情報に基づいた記事であるにも関わらず、依頼に応じて削除したとします。すると、サーバー利用者であるブログ運営者から損害賠償請求を受ける可能性があるのです。

つまり、プロバイダーには、記事を削除してほしい側とサーバーの利用者の双方から法的責任を問われる立場にあり、その責任と免責の対象を明確にするプロバイダ責任制限法という法律が存在しています。裁判所から削除命令を受けた場合、裁判所が削除すべき理由のある情報であると認めたということになり、プロバイダ責任制限法の定めによって記事を削除したことによる責任を問われることなく、削除を行うことができるのです。

④報道機関を訴える

報道機関が削除に応じない場合においては、名誉毀損などで報道機関を訴えるという方法もあります。その場合、報道機関側に報道内容が事実かどうかの立証責任がいくため、認められる可能性が高いです。裁判所に不法な表現と認めてもらった上で、報道機関に任意で削除を求めることになります。

実際のところは、有罪になった事件であっても一定の時間が経過していると削除してもらいやすく、訴えるまでせずとも①の段階で削除してもらえることも多いです。

弁護士に相談して早期に解決を

逮捕に関する実名報道の削除要請はご自身で行なうこともできますが、法的根拠に基づいた弁護士の削除要請の方が有効な場合もあります。

法律事務所Zでは、報道機関への削除要請はもちろん、テレサ書式の記入や仮処分申し立てについてもノウハウがございます。GAFAなどのIT企業出身の弁護士も所属しており、ネットトラブルに関する知見も有しております。ネットにまつわるお困りごとは、お気軽にご相談してください。

依田俊一

2011年慶應義塾大学経済学部卒業、2014年東京大学法科大学院修了。法務博士(専門職)。経済産業省、中小企業庁を経て、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。野村證券株式会社に出向し、法律事務所Zを創立。現在は国内ファンドに所属。証券会社において、ファイナンシャルアドバイザーとして、多数のM&A、事業再編の支援を担当した経験から、M&A、事業承継、買収ローン案件に強みを持つ。

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