治安が良いと言われる日本において、発生件数が多く社会問題の一つになっている痴漢行為。その多くが電車内で行われ、コロナ禍で一時件数が下がったものの、昨年警視庁が発表した1〜6月の痴漢容疑事件の摘発件数は400件を超え、コロナ禍前の水準に戻ってきてしまっています。今回は、ご自身やご家族、知人が痴漢で逮捕されてしまった場合の逮捕、起訴までの流れや、対応のポイントについて弁護士が解説していきます。
痴漢行為の罪名と刑罰
まず、痴漢行為の罪名や刑罰について解説していきます。痴漢は行為の内容によって適用される罪名が異なります。被害者の年齢によっても罪名が異なる場合があります。
①迷惑防止条例違反
迷惑防止条例は、各都道府県ごとに制定されているため、内容や罰則に地域ごとに違いがあります。東京都では6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。行為については、衣服、その他身につけるものの上から身体に触れる行為が該当します。初犯の場合、略式手続により罰金扱いになることも多いですが、その場合も前科が付きます。
②不同意わいせつ罪(前強制わいせつ罪)
悪質性の高い痴漢行為については、23年7月に施行された不同意わいせつ罪が適用される可能性があります。具体的には着衣の下から直接身体に触れる行為などが該当します。罰則は6か月以上10年以下の拘禁刑(懲役刑)と大変重いです。
③不同意性交罪
さらに、性器の中に手を入れるなどの行為については、不同意性交罪が適用される可能性があります。その場合、罰則は5年以上20年以下の拘禁刑(懲役刑)と不同意わいせつ罪より重く、原則として執行猶予も付きません。
逮捕されたらどうなる?逮捕後の流れ
続いて、逮捕される際の流れについて解説します。痴漢の場合、「現行犯逮捕」と「後日逮捕」の2つのケースがあります。現行犯逮捕では、被害者や目撃者に捕まり、駆けつけた警察に引き渡されたのち、最寄りの警察署に連行されます。駅や電車内で捜査中の私服警官にその場で捕まる場合もあります。
後日逮捕の場合、被害者が被害届を警察に提出して捜査が行われ、防犯カメラの映像などから犯人を特定。裁判所が発行した令状に基づいて、警察が自宅などを訪れて逮捕し、警察署に連行されます。
逮捕されたあとは、次のような流れとなります。
①取り調べ、最大48時間の身体拘束
痴漢で逮捕されると、まず警察署の留置所に入れられて最大で48時間拘束されます。この間に取り調べが行われます。
②検察庁へ送検、検察による取り調べ
取り調べが完了すると、警察は被疑者の身柄と事件を検察庁に送致(送検)します。送致を受けて検察官は、被疑者の取り調べを行い身柄勾留が必要かどうかを判断します。身柄を勾留する場合、裁判所に勾留請求をします。
③裁判官の勾留決定を受け、最大で20日間の勾留
検察官の勾留請求を受けて裁判官が勾留決定の判断をした場合、10日間の勾留となります。その後、勾留延長となった場合、さらに10日間勾留され最大で20日間勾留されることとなります。
④検察官による起訴・不起訴の判断
勾留されている間、検察官は被疑者が反省しているかどうかや、余罪の有無、被害者と示談するのかなどを考慮し、起訴か不起訴かを判断します。
⑤刑事裁判へ
起訴された場合は、刑事裁判が開かれます。裁判で有罪となれば、執行猶予付きの判決もしくは、実刑が下されて刑務所に入ることになります。迷惑防止条例違反の場合では、略式起訴となる可能性があります。略式起訴では、裁判は開かれず罰金刑となり罰金を払えば釈放されます。略式起訴の場合でも、前科は付きます。
より罪の重い不同意わいせつ罪の場合、罰金刑がないため必ず裁判が開かれ、有罪となれば実刑か執行猶予付きの判決が下されます。不同意性交罪の場合では、執行猶予なしの実刑となります。
不起訴となった場合は、裁判が開かれることなく釈放され、前科も付きません。
弁護士に相談することのメリット
痴漢で逮捕された場合、早期に弁護士を選任し弁護士のアドバイスを受けながら、取り調べを進めることが望ましいです。以下、弁護士に相談する場合のメリットと弁護士がどのような対応をするかについて解説していきます。
メリット①早期釈放に繋がる可能性が高くなる
検察官が勾留請求を判断する際に、被疑者が痴漢行為を全面的に認め、身元もはっきりしていて家族など明確な身元引受人がいる場合、勾留請求をしないと判断することがあります。勾留請求がされなければ、そのまま釈放となります。
この際、弁護士が間に入ることで検察官に対して被害者への弁済の意志が明確にあることや、逃亡の可能性がないことなどを説明し、勾留請求をしないように働きかけることができます。勾留請求が行われた場合でも、裁判所に対して勾留請求の却下を求めることもできます。
メリット②示談交渉がスムーズに進む
早期の釈放や不起訴を獲得する上で、被害者と示談するということも重要です。当然ながら示談を進めるためには、被害者と連絡を取る必要がありますが、被害者側が加害者に対して連絡先を教えることを拒否するケースが多いです。警察や検察が加害者に対して、連絡先を教えることもありません。
弁護士が間に入ることで、加害者本人には連絡先を開示しないことを条件に、被害者との交渉を進めることができます。つまり、弁護士がいないと示談交渉は困難と思って良いでしょう。
交渉に際しては、法的な知識や過去の事案などと照らし合わせながら、適切な示談金相場に基づいて、相手方との交渉を進めます。当然ながら、被害者の心情に寄り添いながら相手方の要望を聞くことも重要で、弁護士の知識と経験が求められます。
冤罪を主張する場合の対応
冤罪を主張する場合においても、弁護士の存在が不可欠となります。被疑者が痴漢行為を否認している場合、検察は勾留を延長して事実確認や捜査を継続します。そのため、身体拘束される期間は長くなります。
このような場合、弁護士は勾留理由の開示請求をしたり、裁判所の勾留延長決定に対して準抗告という形で、勾留の必要がないことを主張していきます。また、逃亡や証拠隠滅の恐れがないことを主張しながら、勾留取消申請を行うこともあります。
これらの手続きと並行して、当然ながら冤罪を主張するための証拠収集を行います。目撃者を探したり、現場の状況などから犯行が困難であることを立証するなど、弁護士の視点で冤罪に繋がる証拠を集めていきます。
加えて、家族や職場など周囲の人たちへのケアも行います。家族や同僚が逮捕されてショックを受けていることも多いですが、冤罪を主張するためには周囲のサポートも重要になります。時には家族を励ましたり、職場に対しては本人が冤罪を主張していることを伝えて、解雇しないよう申し入れを行います。
冤罪を主張する場合であっても、双方の負担を少なく解決に向かう手段として示談を行う場合もあります。裁判を行うためには時間や多額の費用がかかります。金銭的にも精神的にも被害者にとっても負担が大きいことです。早期に刑事事件としての手続きを終了させるために、相手方と示談を行って不起訴を獲得します。
痴漢事件は法律事務所Zに相談を
ここまで、痴漢で逮捕された場合の流れと弁護士の対応について解説しました。痴漢を行ってしまった場合でも、冤罪を主張する場合でも、早期に弁護士が介入することで適切な対処とプロセスに沿って解決に向けて進めることができます。
相談する弁護士を選ぶ際は、痴漢事件の経験がある事務所に相談するのが良いでしょう。法律事務所Zでは、痴漢で一度逮捕されてしまったケースで、示談に持っていった実績もございますので、お困りの際はご相談ください。