役員報酬の減額を理由に婚姻費用を減らされたらどうすればいい?

男女問題

離婚に向けた話し合いにおいて、夫婦だけで進めることが難しいのが「お金」にまつわる取り決めです。慰謝料、財産分与、養育費など、離婚成立後に双方が生活を維持するために重要な項目が多く、お互いの主張がぶつかってしまいがちです。今回は収入と婚姻費用について、事例(※)を交えて解説していきます。※個人の特定を避けるため、一部架空のストーリーを入れています

■役員報酬が減ったから・・・

50代の百合子さん(仮名)は、夫で会社役員の重雄さん(仮名)と離婚に向けて婚姻費用について話し合っていました。

「実は、会社の業績が下がっていて役員報酬を減らされてさ。婚姻費用は直近の収入を基に算出するから今年の年収が基準になるよ」

そう言って重雄さんが見せた会社が発行した書類には、年間の役員報酬が記載されていました。

「あなた年収は2,500万円だって言っていたけど、1,400万円も減額されてるじゃない。いくらなんでもそんなに減らされることなんてあるの?」

そこには、年間の報酬額が1,100万円と書かれていました。重雄さんが役員に昇格して3年間、2,000万円を超えた年収を自慢げに語っていた重雄さんを見ていた百合子さんは、信じることができません。

「苦しいのは、俺だけじゃない。役員みんな社員と会社のために、報酬を削っているんだよ」

百合子さんは、このまま減額後の収入を基準に婚姻費用を算出するしかないのでしょうか。

■婚姻費用と収入

そもそも「婚姻費用」とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用のことで、居住費や生活費、子供がいれば学費なども含まれます。夫婦は、収入等に応じて婚姻費用をお互いに分担することが民法760条で定められています。

婚姻費用の算出においては、一般的に「算定表」という早見表を用いて算定されます。この算定表を見れば、婚姻費用を支払う方(義務者)と受け取る方(権利者)の収入の組み合わせから、迅速におおよその額を算定することができます。このとき、収入は直近の金額を基準に算定されるのが原則とされており、重雄さんの役員報酬が減額されているのであれば、減額後の金額が適応されることになります。

■意図的に報酬を下げる行為

ただし、例外もあります。それは、役員報酬の減額が婚姻費用を下げるために意図して行われていた場合です。にわかには信じ難いですが、実際に婚姻費用を下げる目的で、意図的に収入を下げていた事例があります。

百合子さんから相談を受け、私たちは重雄さんの収入や会社について調査を開始しました。すると、少なくとも直近の3年間において、会社の業績が下がっていないことが分かりました。会社の業績悪化を理由に役員報酬を減額されたとする、重雄さんの主張と矛盾しています。

次に、重雄さん以外の役員の報酬について調査を続けました。会社の業績は伸びていますので、他の役員の報酬は下がっておらず、増えている人もいました。会社の業績に関係なく、重雄さん自身が、報酬減に繋がるミスをしてしまっていたり、問題の責任を取った可能性もありますが、そのような事実も確認できませんでした。

これらの調査結果を基に重雄さんと話し合い、減額前の役員報酬を基準として、婚姻費用を獲得することができました。

■弁護士に相談を

夫の勤める会社に対して、役員報酬や業績を確認するという行為は、百合子さんがひとりで行うことは現実的に難しいです。かと言って、重雄さんの言葉を信じて話し合いを進めていたら、婚姻費用の金額は下がっていたでしょう。では、こんな時どうしたら良いでしょうか。

まずは弁護士に相談してみましょう。弁護士が介入してヒアリングや調査を行うことで、選択肢が広がり、ひとりでは難しい交渉も進めることができます。婚姻費用は、離婚成立後に安定した生活を送り続けるために、とても大事な費用です。ひとりで悩まずに些細なことでも相談してみてください。私たちと一緒にあなたが本来もらうべきお金をしっかり受け取りましょう。

伊藤 建

弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。

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