美容整形で失敗してしまった場合に返金してもらえるポイント

美容医療

最近、美容医療にまつわるご相談を多くいただいております。美容医療が身近になったと感じる一方で、結果に納得がいかずに悩んでいる人も多いようです。残念ながら美容医療で失敗してしまった場合に、全てのケースで返金してもらえるというわけではないのが現状です。今回はどのような場合に、返金してもらえる可能性が高いかについて解説していきます。

返金が難しいケース

国民生活センターによると、2017年に1,878件だった美容医療サービスに関する相談件数は年々増加しており、2021年では2,766件となりました。美容医療を受ける方の数自体が増加傾向にある中で、それに比例してトラブルに合ってしまう方の数が増えていると言えます。

最初に申し上げますと、こうしたトラブルやご相談の中でも「理想通りの見た目になっていない」、「仕上がりが思っていたのと違う」といったように、個人の価値観の範囲を超えないレベルで失敗を主張するようなケースでは、返金や慰謝料を受け取ることは困難です。訴訟に発展したとしても、裁判費用や弁護士費用だけがかかってしまい、出費が増えるだけになってしまいます。同じお金をかけるのであれば、別のクリニックを探したり、適切な施術を受ける道を選択する方がよいでしょう。

返金を受けやすい条件

では、どのような場合に返金や慰謝料を受け取ることができるのでしょうか?いくつか条件と例を挙げて解説していきます。

返金を受けやすい条件①合併症や後遺症を発症してしまっている

美容医療の施術を受けた後に、以下のような合併症を発症したり後遺症が残ってしまっている場合は、医療過誤として返金や慰謝料を求められる可能性があります。

  • 事前に説明を受けたダウンタイム(美容整形の施術に伴う腫れやむくみが回復するまでの期間)を経過しても患部の腫れや痛みが治らず、日常生活に支障をきたしている
  • 施術箇所やその周辺が麻痺したまま、うまく動かすことができなくなってしまった
  • 施術後に目がうまく開かなく(もしくは閉じなく)なってしまった

このように合併症や後遺症を発症している場合、医療機関の診断書をもらうようにしましょう。診断書がない場合、請求は厳しくなりますので、弁護士に相談する前に、手術した美容外科以外の医療機関で診断書を取得するとスムーズです。施術を受けた美容外科から、修正手術などを提案されることもありますが、別の医療機関に行って診断してもらうのがよいです。そこで適切な診療を受けてから治療し、診断書をもらいましょう。

返金を受けやすい条件②個人の価値観の範囲を超えて、第三者目線でも失敗が疑われる

後遺症がなくても、第三者が見て明らかな失敗が疑われる場合、返金や慰謝料の支払いを受けられる可能性があります。

  • 二重手術を受けた後、施術に用いた糸がはみ出して露出したままになっている
  • 顔に大きな傷跡が残ってしまっている
  • 目の大きさや眉毛の位置などが明らかに左右非対称になっている
  • 豊胸手術をしたのに胸が大きくならなかった

始めにも申し上げましたが、これらの例とは逆に個人的な価値観の範囲を超えない「理想通りの見た目になっていない」、「仕上がりが思っていたのと違う」というレベルでのご相談は、医療過誤と主張するのは難しく、返金や慰謝料を求めるのは難しいです。

ダウンタイム経過→医療機関で診断(症状固定)→弁護士相談

また、ダウンタイムを経過していない段階では、弁護士も適格な回答ができません。ダウンタイムとは、美容整形の施術に伴う腫れやむくみが回復するまでの期間のことです。美容医療の施術の多くは注射をしたり、メスを入れたりと皮膚や身体に何らかのダメージを与える行為を伴います。火傷や怪我が綺麗になるまでに時間がかかるように、美容医療の施術においても腫れやむくみ、赤みなどが治るまでに一定の時間を要します。

ダウンタイム中にご相談いただいたとしても、それが施術に伴う適切な身体の反応で、一定期間を過ぎれば回復に向かうものなのか、ダウンタイムの反応を逸脱した症状なのかの判断が私たち弁護士ではできません。医療機関に診断書をもらう場合にも、ダウンタイム経過後にしましょう。

なお、ダウンタイムさえ経過していれば、仮に症状固定をしていなくとも、弁護士に相談してもよいでしょう。症状固定とは、症状がそれ以上良くも悪くもならないことです。症状固定をしていないと請求金額が決まりませんので、医療機関に請求する段階では症状固定をしている必要があります。しかし、症状固定前であっても、証拠を確保するためにやるべきことがたくさんあります。医療過誤における損害賠償請求の期限は、症状固定から3年とされているので、ダウンタイムを経過しても回復しない場合には、早めの相談をお勧めします。

このように、ダウンタイムの経過後に医療機関での診断を受けてから、症状固定を待つことなく、弁護士に相談をするという順番が一番スムーズです。

仕事への影響や休職

合併症や後遺症の有無に加えて、施術を受けた結果、仕事を続けることが困難になったケースでも、賠償金や解決金を受け取ることができる可能性があります。特に、芸能人やモデル、ホスト、ホステスなど、顔や容姿が重要な職業に従事している方で、施術の結果として仕事の継続が困難になり、休職を余儀なくされた(事前に説明されたダウンタイム期間を除く)場合が該当します。これらの顔や容姿が重要な職業に従事している方の場合、休業損害が大きくなるので、弁護士に相談することをお勧めします。

顔や容姿に関係がない職業であっても、合併症や後遺症の治療を理由に休職が必要になった場合でもよいでしょう。その場合、休職したことによって失った収入、つまり働き続けていた場合に受け取ることができた給料や収入を基準に賠償金や慰謝料を算出しますので、年収が高ければ高いほど、受け取ることができる金額は大きくなります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ご自身の状況がここで紹介した条件に当てはまっているのであれば、返金や慰謝料を主張できる可能性があります。また、これから美容医療を受けようとされている方は、正しく準備をすることで、トラブルに合うリスクを下げることができます。こちらの記事でも解説しましたが、美容医療においては手術前に治療の方法・効果・副作用の有無等を説明し、患者の自己決定に必要かつ十分な判断材料を提供すべき法的義務があります。消費者庁のホームページでも美容医療施術前に確認したいポイントやチェックリストを公開し、注意喚起をしています。事前に確認されることをお勧めいたします。

伊藤 建

弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。

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