美容医療にまつわるご相談が増えています。SNSなどでも美容医療関連の情報を発信するアカウントが多く、身近になったと感じる一方でトラブルに巻き込まれるケースもあり、正確な情報を収集し、信頼できる医療機関で適切な施術を受けることが求められています。今回は美容医療の中でも問題視されている、アクアフィリング豊胸について解説していきます。
アクアフィリング豊胸とは
アクアフィリング豊胸とは、ジェル状の充填剤を乳房に注入する豊胸術の一つで、チェコ製充填剤の「アクアフィリング」が利用されています。充填剤を注射器で注入するという手軽さから、「メスを使わない」、「自然な素材で効果が持続」などの謳い文句とともに、多くのクリニックで実施されていました。日本美容外科学会(JSAPS)の発表によると、2017年に実施された豊胸手術のうち、約46%が充填剤による施術でした。
合併症が頻発し各国で注意喚起
その手軽さから多くの人が利用した一方で、施術を受けた後にしこりや変形、感染症などの合併症の被害を訴える患者が続出し、問題視されるようになりました。特に有名なのは、2016年2月15日に韓国乳房美容債権外科学会が出した「乳房増大のためのアクアフィリングの使用に関する声明」です。この声明の中で同学会は、豊胸目的での充填剤の使用に明確に反対しました。
これを受けて、我が国でも議論がなされ、日本美容外科学会(JSAPS)が韓国の声明をウェブサイトに掲載したり、2017年3月17日に日本美容外科学会(JSAS)が「ポリアクリルアミド・フィラー使用についての注意」という文書を発出したりと、注意喚起が相次ぎました。
さらに、2018年11月には日本美容外科学会が厚生労働省で会見を開き、「人体に吸収されない充填剤は豊胸術に使うべきではない」との見解を発表したことも大きな話題となりました。

会見の中で学会側は、豊胸のためジェル状充填剤を使うことは「長期的に問題が出てくる可能性があり、国際的には標準治療ではない」とし、「施術を受けた患者は専門の医療施設で健康診断を受けてほしい」と呼び掛けました。
JSAPSが形成外科医らを対象に被害状況を調査したアンケート(2018年6〜7月実施。回答数132人)では、半数超が感染症などの被害患者を診たと回答し、その多くがアクアフィリング豊胸を受けた患者でした。
米国でもジェル状充填剤による豊胸は問題視されており、食品医薬品局(FDA)が豊胸目的で充填剤を使用することを禁止しています。
日本では禁止されていないため要注意
こうした流れを受け、遂には日本形成外科学会、日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容外科学会(JSAS)、日本美容医療協会の4団体が「充填剤注入による豊胸術に関する過去の経緯を踏まえ、安全性が証明されるまで非吸収性充填剤を豊胸目的に注入することは実施するべきではない」とする共同声明を発表しました(2019年4月)。

しかしながら、強く問題視されている一方で、日本では利用の禁止とまでは至っていないのが現状で、医師個人での充填剤の輸入と患者への利用が認められています。手軽さを謳って患者を集めるクリニックが今も多く存在しています。
施術後に合併症などのトラブルに合ってしまったら
では、もしアクアフィリング豊胸の施術を受けた後で合併症などを発症してしまった場合、治療費は返金してもらえるでしょうか。前述の通り、日本においてはアクアフィリング豊胸自体は禁止されておりませんが、業界団体が「実施すべきではない」との声明を発表していることや、厚生労働省も注意喚起をするほどの危険な施術であることは間違いありません。
こちらの記事でも解説しましたが、美容医療においては手術前に治療の方法・効果・副作用の有無等を説明し、患者の自己決定に必要かつ十分な判断材料を提供すべき法的義務があります。アクアフィリング豊胸のように、学会が実施すべきではないとしている危険な施術であればなおさらで、合併症を発症するリスクや問題点についての説明義務違反がなかったかという点で、医師側の責任を追求して慰謝料を請求できる可能性があります。
もし、医師がこれらのリスクを知らなかったとしても、調査を怠っていたことになりますから、説明義務違反から逃れることはできません。特に、韓国で声明が公表された2016年以降や、日本で問題が顕在化した2017年以降の手術であれば、責任を問える可能性が上がります。

とは言え、ご自身でクリニックと交渉するのは、心身ともに大きな負担となってしまいます。医師を訴えることに気が引けるという方もいるでしょう。法律事務所Zでは、これまでも美容医療のトラブルを取り扱っております。治療費や慰謝料を求めることは、あなたの正当な権利です。ひとりで悩まず、まずは一度相談してみてください。