美容整形に失敗したらお金は取り戻せる?

美容医療

美容医療に関するご相談が増えています。テレビCMや電車の車両内広告、SNSなど美容医療関連の広告を目にしない日はなく、身近になったと感じる一方でトラブルに発展するケースも増えているようです。実際、日本美容外科学会(JSAPS)がまとめている「全国美容医療実態調査」によれば、2017年に160万件だった全美容施術数の合計は、2021年には236万件まで増えています。今回は美容整形が失敗してしまった場合に、返金できるかについて解説します。

はじめに

最初に申し上げますと、美容医療においては「理想通りの見た目になっていない」、「仕上がりが思っていたのと違う」といったように、個人の価値観の範囲を超えないレベルで失敗を主張するようなケースでは、返金や慰謝料を受け取ることは困難です。詳しくはこちらの記事で解説していますので、ご一読ください。

腫れが治らない

ホストクラブで働く20代男性のYさんは、目の整形手術を受けましたが事前に説明を受けたダウンタイム(美容整形の施術に伴う腫れやむくみが回復するまでの期間)を過ぎても目の腫れが治まりませんでした。ホストにとって顔は商売道具であり、術後半年以上に渡り仕事に復帰することができない状態が続いてしまい困っていました。担当医に相談したところ、施術費用の返金はできないが、再手術は無償で実施する旨を回答されました。Yさんは、同じクリニックで再手術を受けることに抵抗があり、返金を希望しています。

損害賠償請求のポイント

こちらのnote記事でも解説しましたが、美容整形で失敗した場合、①債務不履行責任(民法415条)、②不法行為(民法709条)に基づいて、損害賠償請求をすることが考えられます。もっとも、債務不履行や不法行為を追求する場合、医師側が「債務を履行していないこと」や「法的注意義務違反」があることを具体的に立証しなければなりません。

ここでは、㋐手術それ自体の診察義務違反以外にも、㋑手術後の診断および治療義務違反、患者が手術を正しく決断するために必要なリスクの説明をしたかという㋒説明義務違反がないかなどがポイントとなります。

美容医療ならではの特徴

美容医療の場合、通常の治療行為と違いその処置を“直ちに行うべき緊急性や必要性に乏しい”という点で、必ずこの手術をするべきであるとまで言えない施術が多く、㋐手術それ自体の診察義務違反を立証しにくいという特徴があります。㋑手術後の診断および治療義務違反についても、「明確に術後●日後に必要な処置を怠ったから腫れが引かない」など、術後の処置と損害拡大の明確な因果関係を主張できない限り、立証は難しいです。

美容医療における説明義務

一方で、㋒説明義務違反については、美容医療におけるウエイトが大きいと言えます。一般的に美容クリニックは、テレビCMや屋外広告などの宣伝媒体を用いて患者本人のコンプレックスに訴えかけようとします。広告を見た患者側は、より美しくありたいと考えて施術を希望するわけですから、整形手術においては、患者の主観的願望を満足させることが目的となります。㋒説明義務という点では、手術前に治療の方法・効果・副作用の有無等を説明し、「患者の自己決定に必要かつ十分な判断材料を提供すべき法的義務がある(広島地判平成6年3月30日判タ887号261頁〔隆鼻術〕)」と言えます。

まして、怪我を負っていたり命に関わる病に罹っている状態ではないという点で、美容医療においては、説明を聞いた結果“施術を行わない”という選択肢も患者にはあるわけで、こうした選択肢も含めて、フェアに患者が施術を決断できる説明が求められます。

解決金の妥当性

Yさんの場合、事前に説明を受けたダウンタイムを経過しても腫れが引いておらず、ホストという職業柄、ダウンタイムにかかる期間は、手術を受けるかどうかを判断する上で重要な要素でした。

こうした点を踏まえ、㋐手術それ自体の診察義務違反とともに㋒説明義務違反がなかったかを軸にクリニック側と交渉を行いました。加えて、ホストとして勤務できなくなった事実も鑑みて、その間の休業損害の請求を治療費及び慰謝料とともに行いました。第三者機関による審査も経て一定の解決金の支払いが妥当という回答を得ることができ、最終的には施術費用と休業中の給与に相当する金額を、解決金として支払うことで合意となりました。

迷わず弁護士を頼りましょう

保険適用の対象外である美容手術では、費用は高額になりがちです。高い施術費を払ったからには、理想通りの結果を期待しますし、万が一失敗してしまった場合、返金を求めるのは普通でしょう。多くの場合、クリニック側は返金ではなく再手術を提案しますが、失敗したクリニックで施術を続けることに抵抗がある方も多いでしょう。一度信頼した医師を訴えることに気が引けるかもしれませんが、治療費や慰謝料を求めることは、あなたの正当な権利です。法律事務所Zでは、これまでも美容医療のトラブルを取り扱っております。ひとりで悩まず、まずは一度相談してみてください。

伊藤 建

弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。

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