離婚についてのご相談をいただく中で、揉めてしまいがちなのが財産分与や慰謝料、養育費などお金にまつわる条件面です。夫婦の双方が納得のいく条件で折り合いをつけるのが理想ですが、お互いの主張が噛み合わないことが多々あります。今回は、預貯金を渡すことができないと言われてしまった場合にどうすれば良いか、実際の事例も交えて解説いたします。
財産分与は不動産のみ
60代女性のAさんは、性格の不一致が原因で会社員の夫(60代)と離婚を検討しています。夫婦の預貯金は1,000万円で、現在住んでいる持ち家の評価額は2,000万円相当です。(本事例においては分かりやすさの観点から結婚時の財産はゼロとします)財産分与を検討するにあたり、夫からは自宅の土地建物(2,000万円相当)を渡す代わりに、預貯金は渡さないと提案されました。自宅に住み続けることはできますが、仕事をしていなかったAさんは生活費として現金が必要で、預貯金からも財産分与を受けたいと考えています。
夫の提案は妥当?
まずは、夫の提案が妥当かどうか考えてみましょう。財産分与においては、結婚した時から婚姻関係が破綻した時までに増えた財産を夫婦で分けるというのが基本的なルールとなります。Aさん夫婦の総財産は1,000万円の預貯金と2,000万円相当の不動産で合計3,000万円ですので、それぞれ1,500万円を得られる権利があります。夫は自宅の土地建物全てをAさんに渡すと提案しているので、金額だけみるとAさんのほうがもらい過ぎで、むしろ夫側に現金500万円を支払うべきとも言えます。夫の提案は妥当であり、Aさんにとっては、住む家が保証されるだけでも良かったと言えます。
不動産に加えて現金も受け取る方法
現金がなく生活費が必要なAさんはどうしたら良いでしょうか。我々弁護士は、預貯金以外に将来入ってくる現金など、財産分与の対象とできる資産が他にないかを検証していきます。例えば夫があと3年で定年退職を迎え、退職金2,500万円を受け取るとしましょう。これを退職金債権として現時点で退職した場合の価値に換算し、財産分与の対象に組み込むのです。ここでは仮に2,000万円とします。
そうすると夫婦の総資産は預貯金1,000万円、不動産2,000万円、退職金債権の現在価値2,000万円の総額5,000万円となります。夫婦で分けると2,500万円ずつとなりますので、自宅の土地建物2,000万円だけでは、Aさんが500万円足りなくなり預貯金から現金500万円を受け取ることができるようになります。夫は預貯金の残り500万円と退職金を3年後に受け取ります。
弁護士ならではのアプローチ
もっとも、退職金は将来の債権ですので、常に財産分与の対象にできるわけではありません。退職間際だったり、公務員など退職金の受け取りが確実である場合は対象になりやすいですが、退職が先だったり、夫の勤務先の会社の業績が不安定な場合は対象にできないこともあります。より正確な退職金債権を算出するために、退職金規定を提出してもらったり、算出した退職金に間違いがないかを勤務先に依頼してサインしてもらうこともあります。協力が得られない場合は、裁判所を通じて情報開示を求める「調査委託」や弁護士会を通じて情報開示を求める「弁護士会照会」といった方法も検討します。弁護士が介入することで、こうした財産の算出や情報開示方法の選択肢が広がりますので、まずは些細なことでも相談してみてください。私たちと一緒に適切な方法で主張し、あなたが本来もらうべきお金をしっかり受け取りましょう。