離婚したあとからでも財産分与は請求できる?

男女問題

離婚に向けた話し合いにおいて、夫婦だけで進めることが難しいのが「お金」にまつわる取り決めです。慰謝料、財産分与、養育費など、離婚成立後に双方が生活を維持するために重要な項目が多く、お互いの主張がぶつかってしまいがちです。今回もそんなお金にまつわるトラブルについて、架空の事例を交えて解説していきます。

熟年離婚ー離婚はするが財産は渡さない

70代の久子さん(仮名)は、夫の正和さん(仮名)が定年退職してから家で一緒に過ごす時間が増え、ストレスを感じることが多くなりました。夫婦喧嘩も増え、自分の時間や居場所がなくなっていく感覚に耐えられなくなり、離婚を決意しました。

いつものように些細なことで口論になったある夜、久子さんは意を決して切り出しました。

「私たち離婚しましょう」。

全く予想していなかった久子さんの言葉に、はじめこそ動揺した正和さんでしたが、久子さんの強い意志を感じて承諾することにしました。

「自宅は俺の名義だから、お前に権利はない。貯金だってそもそも俺が稼いだお金だ。何より、離婚するのはお前の希望なんだから財産分与はしない。それが離婚の条件だ」。正和さんの提案に「これまでさんざん尽くして来たのに、あなたって人は最後まで自分が一番大事なのね」と悲しくなりましたが、1日でも早く別れたい一心で財産分与の協議をせずに離婚届を提出しました。

財産分与について

運良く1LDKの都営住宅に入居が決まり、一人暮らしを満喫し始めた久子は、ふと気になって財産分与の仕組みや離婚協議の事例について調べ始めました。

財産分与は、結婚した時から婚姻関係が破綻した時までに増えた財産を夫婦で分けるというのが基本的なルールです。結婚した時点の財産と婚姻関係が破綻した時点の財産を比較して算出します。久子さんが専業主婦だとか、結婚後に増えた財産は正和さんが稼いだお金だとかは関係なく、夫婦の共有財産として公平に分割します。

食材はなるべく特売品、自分の服は何年も着回し。一生懸命家計をやりくりして貯めた貯金。ネットで調べて出てきた「共有財産」という言葉に、久子さんは思わずハッとしました。

「確かに稼いだのは私じゃないけど、少しでも多く貯金するために毎日頑張ったじゃない」。何十年も続けてきた日々の努力を思い出し、協議もせずに簡単に財産分与を放棄してしまったことを激しく後悔しました。

「離婚した後でも、財産分与は請求できるのかしら・・・」。

請求は2年間有効

久子さんのように、離婚成立後に相談に来る方は珍しくありません。一人で冷静に考え直してみると、納得できない部分が出てくることもありますし、弁護士を介さずに同居中の夫婦だけで話し合うのは、冷静さを欠いてしまったり感情に流されたりと、難しいものです。

離婚成立後であっても、財産分与はもちろん、婚姻中の納付額に対応する厚生年金を分け合う「年金分割」は、2年間請求することができます。久子さんの場合、まだ離婚から1年も経過していなかったので、財産分与と年金分割の調停を申し立て、正和さんの財産について調査を行いました。

離婚時の財産は久子さんが200万円に対し、正和さんは2,000万円で合計2,200万円です。
独身時代の久子さんは、金融機関で働いており結婚時の財産は500万円ほどあり、正和さんは300万円で、当時の財産の合計800万円となります。厳密には婚姻中に増えた金額は1,400万円となりますが、熟年離婚の場合、離婚時の財産を基準とするケースが多いところです。したがって財産分与の金額は、2,200万円の半分である1,100万円ずつとなります。

900万円の財産分与を獲得

この試算結果に従って、久子さんは900万円の財産分与を受けることができました。早く離婚したいという気持ちと感情に任せて協議をせずに、一度は正当な権利を放棄してしまった久子さんでしたが、財産分与を受け取ったことで「主婦として積み重ねてきた努力が報われたようで嬉しい」と嬉しそうに話しました。

財産分与や年金分割は離婚成立後2年間まで請求することができます。期限が過ぎてしまうことのないよう、一人で悩まずに弁護士に相談しましょう。法律事務所Zでは、離婚事案の経験が豊富な弁護士が多く在籍しています。あなたの正当な権利を正しく主張して、本来もらうべきお金を受け取りましょう。

伊藤 建

弁護士、法務博士(専門職)、大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師、広島大学法科大学院客員准教授、関西大学法科大学院非常勤講師。内閣府、消費者庁を経て、琵琶湖大橋法律事務所開業後、資格試験プラットフォームを運営する株式会社BEXAを創業。日本海ガス株式会社入社を経て、法律事務所Zを創立。多数の一般民事事件に従事したほか、初の受任事件で無罪を獲得し、第14回季刊刑事弁護新人賞最優秀を受賞するなど、訴訟戦略に強みを持つ。中小企業・ベンチャー企業の一般企業法務のみならず、起業家弁護士として、DX改革や新規事業創出支援、ルールメイキングも得意とする。

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